【インタビュー】GAC第1期修了生|川上千夏さん
掲載日:2021年03月17日
豊橋技術科学大学グローバル技術科学アーキテクト養成コース第1期生が、2021年3月、社会に巣立ちます。
「グローバルコミュニケーション能力」「多様な価値観の中での課題解決能力」「世界に通用する人間力」を身につけ、世界に羽ばたく修了生に、技科大のGACライフをインタビュー、今の気持ちを聞きました。
医療機器開発を通じて社会に貢献したい
川上千夏さん
電気・電子情報工学専攻 集積化バイオセンサ・MEMSグループ
(2021年3月 修了予定)
グローバルに働くことを夢見て、自ら異文化に飛び込む
高専在学中から、将来は社会に貢献する仕事をしたいと考えていた川上千夏さん。機械・情報系の知識を活かし、病気の早期診断や感染症対策などに役立つ医療機器の開発に携わりたいと夢見てきた。
「自分も病院のお世話になったことがありましたし、その恩返しの気持ちもあって、病気や怪我で困っている人の役に立ちたいと思ったのです。調べてみると、途上国では日本でなら助かる病気で亡くなっている方が大勢いると知って驚きました。途上国の医療機関でも使いやすい小型で安価な医療機器があれば、医療格差をなくすことにつながるはずです。そこで、高専の先生のアドバイスもあり、豊橋技術科学大学でMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の勉強をすることにしました」と川上さんは語る。さらに、途上国をはじめ世界で活躍する技術者になるために、グローバル技術科学アーキテクト養成コース(GAC)を選択。第一期生として入学し、グローバルハウスでの生活を体験した。
「5人1部屋で、自分を含めて2人の日本人のほか、マレーシアの留学生2人、ベトナムの留学生1人と共同生活をしました。マレーシアの留学生はムスリムで、ハラルフードしか食べられないといった文化のちがいについては事前に勉強していました。ところがあるとき、うっかり彼女たちの鍋で調理するという大失敗をしてしまったのです。すぐに新しいものを買って謝りましたが、彼女たちを傷つけてしまったし、認識が甘かったと大いに反省しました」
一方、共同生活は留学生にとっては日本語を、日本人にとっては英語を学ぶ格好の場でもあった。そうしたコミュニケーションを通じて留学生たちと友情を育んだことは、将来、グローバルに活躍するうえで大きな糧になったと川上さんは語る。
「ただ、留学生たちは日本語がとても堪能で、つい日本語で話しがちでした。そこで、学部4年の1月から博士前期1年の6月にかけての5カ月間、英語しか話せない環境に身を置こうと、韓国のKAISTへ留学しました。徴用工問題などで日韓関係がギクシャクするなか、韓国に行くのは、正直、とても不安でした。実際は外から見るのと中から見るのは大ちがいで、皆とても親切にしてくださいました。最初こそ下手な英語を話すのが苦痛で、1日中パソコンと顕微鏡に向かっていましたが、これではダメだと反省し、2カ月目からは自ら話しかけるようになり、徐々に毎日が楽しくなりました。研究の合間に、オランダ人のルームメイトとその友達と一緒にK-POPのコンサートに行ったのはいい思い出です」と、川上さんは当時を振り返る。
人々の健康に役立つ医療機器の開発をめざして
実は川上さんの高専での専門は機械制御・情報系工学系で、編入時に専門を電気・電子に切り替えたため、当初はかなり苦労したという。
「学部3年のときは、授業や課題の提出に追われ、図書館に通い詰めて、毎日3時間寝れるかどうかという日々でした。4年次になると今度は研究が忙しくなり、グローバルハウスで過ごす時間が少なかったのはもったいなかったですね」と川上さん。
もっとも、そうした苦労の甲斐あって、水素イオンのイメージセンサの研究では、課題となっていたイオンの拡散を抑制する構造体の製作方法を開発し、高精細なイメージングに成功した。さらに、複数の神経伝達物質を同時に高精細にイメージングするデバイスの製作にも取り組んだ。また、留学先のKAISTでは、最先端のオプトジェネティクス(光遺伝工学)の研究に従事。オプトジェネティクスとは光で細胞の機能を制御する技術だが、このときに必要になるμサイズのLEDプローブを3Dプリンターで製作し、5カ月という短い期間で成果を出した。2021年3月には博士前期課程を修了し、4月からは島津製作所へ入社する。
「分析装置や医療機器を手がけるメーカーで、海外で事業も展開している企業ということもあり、さらに一歩、夢に近づきます。とくに興味があるのがアルツハイマーの超早期診断装置の開発です。実は介護が必要な祖母と実家で暮らしたことや、在学中に特別養護老人ホームでアルバイトをした経験を通じて、尊厳ある"生"のためには健康長寿が欠かせないと痛感したんですね。医療機器などの開発を通じて、一人でも多くの方の健康に役立ちたいと思っています」
(取材・文=田井中麻都佳)